ムキムキになりたいのであればボディビルダー系のYouTubeチャンネルでも観ることを勧めますが、
- 今より健康になりたい
- もっと疲れにくく動けるようになりたい
- ムキムキになりたい訳ではないけど、筋肉をつけたい
- 趣味などの何か目的があり、それを達成したい
ということであれば、ファンクショナルトレーニングの考え方を筋トレに取り入れることを強くお勧めします。
私は学生時代は体操競技をやっていたのですが、トレーナーになる前からいわゆるジムでの筋トレに対して疑問を抱くことが多かったんですね。
トレーナーになってから自分で勉強していく中でファンクショナルトレーニングの概念に触れ、納得のいくことが非常に多かったです。
こちらの記事では一般的にあまり話されていない、ファンクショナルトレーニングについて紹介します。
ファンクショナルトレーニングとは
言葉としてのファンクショナルの意味は実用的・機能的といったところで、ファンクショナルトレーニングとはその名通り実用性や機能性を目的としたときに行うべきトレーニングといえます。
すなわち基本的に運動はファンクショナルを考えるべきということとなります。
そもそもファンクショナルトレーニングという言葉が使われていたかどうかは分かりませんが歴史的に考えて、戦いに勝つ為に動作を素早く出来るようにする、鎧を着て正確に剣を振るトレーニングをするといった活動は、そのものがファンクショナルトレーニングであると言えます。
昔の人は目的を達成するために、鍛錬(トレーニング)をすることがどうしても必要でした。
そういった視点で目的に対して必要があるからやるトレーニングとイメージすると分かりやすいかと思います。
美しいだけがいいか、健康で機能的で美しい方がいいか
文明の進化とともに、人々の生活は全く別のものに変わってきました。
- 生きるために動物を狩る必要は無くなった
- 移動するには自動車の方が歩くより圧倒的に速くなった
- 分業が進み生活の為にやることが減り、さらにオンラインでもサービスが受けられるようになった
生きるために必要な鍛錬が無くなり、トレーニングの目的はダイエットやボディメイクのような、外見を良くするためのものになりました。
それを象徴するのがボディビルといった見た目の美しさを競う競技です。
そして現代のマシンやフリーウェイトトレーニングのほとんどはボディビルの理論や考え方からきているものがほとんどです。
ここで起きている弊害を挙げるとすれば多くの場合一つです。それはボディビル由来のトレーニングが浸透しすぎてしまったために、ダイエットをしたい人も健康になりたいだけの人も、競技力を向上したい人も山を登りたい人もランニングが趣味の人も、みんなボディビル由来のトレーニングをしてしまっているということです。
これはボディビル由来のトレーニングを否定することではありません。ボディビルは極限を求める素晴らしい競技です。
ボディビルのトレーニングはボディビルの為に構築されたものであり、ボディビルダーやボディメイクをする人にとって最適解であるというだけです。
ゴルフやボウリングといった趣味の現場で「筋トレは必要か?」といった議論の中で賛否両論に分かれるのは、筋トレといえばボディビル由来のトレーニングを想像する人が多いからといえます。
ファンクショナルを考えようとしていればその先の議論をすることが出来るでしょう。
トレーニングは多岐に渡ります。例えば健康に、ずっと自分の脚で歩きたいということであれば、マシンに座って行うトレーニングでは重心移動の感覚は身につかないため、動作としては向いていません。
また、ただ単に痩せたいのであれば食事を適正に戻すこともトレーニングと言えますし、腕立て伏せといった自体重の負荷をメインにしたトレーニングでも十分痩せられます。
そしてボディビル由来のトレーニングでなくとも、一般的な人が求める「筋肉質で引き締まった体」や「疲れにくい健康な体」というのは実現可能です。
ファンクショナルトレーニングを説明するとき現代人が失ってしまった体の機能を取り戻すといった表現をすることが多いのですが、それほど現代人は人として重要な運動機能を失いがちです。
機能を取り戻しつつ、イイ感じの体も作れるので、ファンクショナルトレーニングの考え方ができるようになるとトレーニングはより充実したものとなります。
人が持つ機能的な要素
トレーニングをするとき、目的から細分化して考える際の目安として以下の要素を紹介します。
- 筋力
- 筋活性
- 筋持久力
- 関節可動性
- 関節安定性
- 弾性
- バランス
- 心肺機能
- 敏捷性
- 連動性
- 重心移動 などなど
ちなみにボディビル由来のトレーニングではこの中の筋力や、筋肥大といった部分にかなり比重が偏っています。
一般的な人は多くの場合、筋力よりも筋持久力を身につけた方が日常生活はより楽になりやすいですし、スポーツをやられる方はここにスポーツ特有のスキルが加わってきます。
スポーツでよく言う「基礎が大切」といった基礎の部分は上記のような要素として考えて差し支えありません。
ファンクショナルトレーニングの5原則を具体例を交えて
トレーニングの各種目について「この種目はファンクショナルトレーニングである」といった定義付けはできません。
それは目的がなければ必要な機能や実用性を割り出すことができないからです。
「〇〇の目的において、この種目はファンクショナルトレーニングである」といったところでしょうか(そのように会話をすることはありませんが笑)。
ファンクショナルトレーニングには5原則とされるものがあり、具体例を交えてご紹介します。
- 重力を利用する
- 分離と協同
- 運動連鎖(キネティックチェーン)
- 3面運動
- 力の吸収と力の発揮
1.重力を利用する
私たち動物はいかなるときも重力を受けており、その環境下で2足歩行をベースとし、姿勢を保持し、動作を行なっています。
赤ちゃんをイメージすると分かりやすいのですが、初めは寝て泣くことしか出来なかった赤ちゃんも、寝返り→ハイハイ→掴まり立ち→歩行といったように、重力に逆らうように力をつけて成長します。
これは非常に人間らしい運動機能といえます。
一方、背中が丸くなったり、ストレートネックになったり、椅子から立ち上がるのがキツくなるというのは重力に負けてしまっている状態であり、運動機能が弱くファンクショナルではない状態です。
多くのマシントレーニングを行う際、力の方向は重力ではなくマシンの滑車によって決められた方向です。
例えばチェストプレスは椅子に座り、背もたれを使い、前方方向へ押し出します。大胸筋への負荷はあるものの、重力とは関係のない状況化でのトレーニングとなります。
一方、腕立て伏せは同じような動作のトレーニングですが、重力に逆らうように力を使います。
もちろん目的によりますが、重力がどのようにかかっているか、ご自身のメニューに当てはめてみましょう。
2.分離と協同
人の各関節には大まかにスタビリティ関節(安定性)とモビリティ関節(可動性)があります。
それぞれの関節が分離した役割を持ち、それらを協同して使うことで動作を行います。
例えば腰痛。腰が痛いので腰を捻ったり伸ばしたり、腰に対してアプローチを試みる人が非常に多いです。
ですが腰椎はスタビリティ関節ですので、役割は腰を安定させることです。
腰が痛いときにコルセットを巻くのは腰を安定させる為と考えると分かりやすいでしょう。
つまり腰が痛いときは「腰椎の安定性が悪くなっているかもしれない、何が原因だろう?」と考えることが改善に対して良い方向性であると言えます。
仮に土台である股関節(モビリティ関節)の可動性が落ちていて腰が痛い場合、腰椎の安定性と股関節の可動性を取り戻し、それらを協同して使用できるようになる必要があります。
腰椎を安定させて股関節を動かす種目は沢山ありますが、例えばスクワットはその一つといえますね。
このように各関節の役割を分離して考え、協同して使うことはファンクショナルトレーニングのみならず、安全にエクササイズを行う上でも重要です。
3.キネティックチェーン(運動連鎖)
運動は各関節・筋肉・神経が複合的に連動し、協同して行われます。
その運動の繋がりをキネティックチェーン又は運動連鎖と呼びます。
特にスポーツなど、複合的で複雑な動作を習得する場合はキネティックチェーンを無視するわけにはいきません。
初めて聞くとイメージしにくい概念ですので、腕立て伏せとマシンのチェストプレスで紹介します。
腕立て伏せは大胸筋をメインで使うトレーニングですが、実は全身が協同しています。
膝が曲がらないように大腿四頭筋が収縮し、臀部筋群や内転筋群が股関節と骨盤を安定させ、体幹部の筋肉がコアを安定させ、肩甲骨周りの筋肉が肩関節を安定させています。
一方、マシンのチェストプレスはシートに座って背もたれを使うので、脚や体幹部への刺激はかなり少なくなります。
肩甲骨は安定させなければ上手く押せませんが、全身の繋がりが腕立て伏せに比べてかなり少ないのは分かりやすいのではないでしょうか。
なぜキネティックチェーンが重要かと言うと、連鎖がうまく繋がらないと動作が非効率となってしまい、さらには身体に痛みが出たり、良くない動作の癖が身についてしまいやすいからです。
例えば腕立て伏せをやると腰が反りやすかったり、膝が曲がってしまいやすいような人がいます。
これはキネティックチェーンがうまく繋がっておらず、入れるべき力が抜けてしまっている状態です。
どうしても膝が曲がってしまうのであれば大腿四頭筋の強化を目的としたエクササイズを加えるといった選択をすることが可能です。
キネティックチェーンを意識するというのは少し難しいかもしれませんが、動作を向上させる点において外すことはできません。
筋肉を鍛えるだけでなく、動作を向上させる視点を持てると良いですね。
4.3面運動
「矢状面・前額面・水平面のプランニングの記事」にも書いていますが、私たちは3次元空間を生きていますので、各方向へ対応できるようにトレーニングを行うべきです。
引っぱる種目を例に挙げると、
- ローロウ(矢状面の動作)
- ハイロウ(水平面の動作)
- ラットプルダウン(前額面の動作)
といった分類をすることができます。
もちろん沢山のマシンが置いてあるジムでは様々な方向へのトレーニングが可能ですが、実はそれだけでは大体うまくいきません。
何を意識するべきかというと、関節への負荷を考え「矢状面に押したら矢状面に引く」といった逆方向への負荷の種目の意識を持つと良いです。
例えばラットプルダウンは前額面に引く動作ですので、その反対の負荷は前額面に押す動作であるショルダープレスになります。
また、ベンチプレスは水平面に押す動作ですので、反対の動作はハイロウやリアレイズといった種目ですね。
なぜこうする方が良いかと言うと、ベンチプレスはやるけど背中のトレーニングを全然やらないような人は、大抵猫背が直りません。
それは押してばかりで筋肉のバランスが取れなくなるからですね。そのような癖を作らない為にも、逆方向への負荷が大切になります。
なのでメニューを組むとき、全ての面の種目を取り入れつつ、このように同じ面の逆の負荷がかかる動作を入れることでバランスよくトレーニングを行うことができます。
5.力の吸収と力の発揮
力の吸収(ローディング)と力の発揮(アンローディング)は言い換えれば縮んだ筋肉が一気に伸びる力、伸びた筋肉が縮む力を指します。
1番分かりやすいのは垂直跳びのようなジャンプの動作で、しゃがみ込んだときが力の吸収で、ジャンプするときに力を発揮するといったところです。
力の吸収と力の発揮は、身体の俊敏性や瞬発力を向上するときに必要なトレーニングの要素となります。
一般的なフィットネスクラブでは安全性の面からこのようなトレーニングを指導する現場は少ないかと思いますが、スポーツの為のトレーニングなど動作の速度を上げるような目的がある場合、必ず必要です。
また、スポーツをやらない人にとっても転んだときに片足で衝撃を吸収したり、とっさに走らなけばならない場合にはこのような要素が必要となり、うまく身体が動かないと怪我をしてしまうこともあります。
よく言う「ゆっくり行う筋トレ」とは逆の概念となりますので馴染みが少ないかもしれませんが、素早く動くことや瞬発力のことも気にしてトレーニングしてみましょう。
終わりに
ボディビル由来のトレーニングしかしてこなかった人にとっては新鮮な情報を提供できたのではないでしょうか。
大切なのはトレーニングに対するご自身の目的です。
様々な視点から運動を考え、自分でメニューをプランニングできるようになると非常に良いですね。
もちろんムキムキになりたければそれ系の情報は世の中にたくさんありますので、他のトレーナーさんやビルダーさんのコンテンツもご覧になってみてください。
無理せず、楽しく、効果的な時間を過ごしましょう。
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